顕微授精

通常精子は精子自体の運動や酵素、免疫的な反応などにより卵子の透明帯(透明帯(卵子を取り囲む殻)を通過し、卵の細胞質に取り込まれます(受精)。しかし、極端に精子数が少なかったり、卵の透明帯や精子の機能障害により受精できない患者さんがいます。そのような患者さんに対して顕微鏡下で1匹の精子を細いピペットで吸い込み、それを卵の透明帯を通過して直接卵細胞質内に注入することにより受精させます。これを顕微授精(細胞質内精子注入法:ICSI)と言います。
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通常の媒精では卵子1個に対して5万~20万程度の運動精子を要しますが、顕微授精であれば卵子1個に対して一つの良好精子が入れられれば受精可能であるため、極度に精子数の少ない症例でも妊娠できるようになりました。

生まれた児の安全性は?

通常の体外受精においては体外受精妊娠vs自然妊娠という比較では体外受精妊娠胎児における染色体異常の増加が見られるが、年齢補正をすると有意な差はないと報告され、現在では通常の体外受精妊娠では胎児の染色体異常が増加するという明確なコンセンサスは認められないとされています。しかし顕微授精妊娠においては、年齢要因を考慮しても胎児の染色体異常が増加する(2.0~4.0%)という結果が多く報告されています。これは手技による影響に加え、不妊原因の影響も考えられています。例えば精液検査の正常な人における精液中の染色体異常精子の割合は約10%程度とされているのに対し、乏精子症ではその割合が30~40%まで増加するという報告もあります。これは重症乏精子症に顕微授精を行った場合の染色体異常や構造異常が3~4倍に増加するというデータと一致しており、不妊原因そのものが胎児異常の原因となり得る可能性を示唆しています。また留意すべき問題点として両夫婦の遺伝的問題や不妊因子を継承する可能性が考えられます。例えばY染色体異常が原因の乏精子症の夫の精子にて妊娠し男児が生まれた場合、父親のY染色体を引き継いだその子も後に乏精子症となる可能性があります。女児であっても受精障害の夫婦間で妊娠した場合、生まれてくる子供も将来的に同様な症状が出てくる事も充分考えられます。